「夜遅くに食べると太りやすい」とか、「食べてすぐ寝ると牛になるぞ」などと、子供のとき親からいわれたことありませんでしょうか?
この考えは、昼間に比べて夜は運動量が減るため、食事から摂ったエネルギーが代謝されずに脂肪になってしまう、というイメージからきています。
でも実際には、1日の食事量が同じなら、いつ食べても結局は変わらないことが分かってきたのです。その理由とは?
体内時計と代謝の関係
私たちの体には体内時計が存在し、24.5時間周期の日内リズムを持っています。
朝太陽の光を浴びるとその刺激が目から視神経に伝わり、朝になったことを体が認識して、脳から胃腸、肝臓など全身の組織にある時計遺伝子を働かせます。
これにより、私たちは意識することなく日中は活動して、夜暗くなると眠くなるという日内リズムをつくりだしています。
この時計遺伝子からつくられるタンパク質のひとつに「BMAL-1」という物質があります。BMAL-1は、脂肪をため込む働きをすることが分かっていて、午前2時ごろにもっとも活発になり、午後2時ごろに活動が弱くなります。
よって、BMAL-1のはたらきが活発になるころ食事を摂ると、脂肪が蓄積されやすくなります。
日内リズムにとって、太陽の光と同じくらい重要なのが朝食です。朝食をとることで時計遺伝子を正常に働かせ、1日の活動エネルギー量や代謝の量を増やすことができます。
逆に朝食を食べないと日内リズムが崩れてしまい、エネルギー代謝量が減るので、体に脂肪がつきやすくなるといわれています。
朝食メインと夕食メインで体重に差はあるの?
それでは、私たちは朝食を食べると太りにくく、夜遅くに食べると太りやすいのでしょうか?
1日に食べる量は同じとして、朝食をメインに食べる場合と夕食をメインに食べる場合の体重と体脂肪の減少量をしらべた論文では、朝食メインのほうがわずかに体重が減っていたものの、体脂肪は夕食メインのほうが減っていることが分かりました。
イスラム教徒のしきたりで、「ラマダン」と呼ばれるプチ断食があるのをご存知でしょうか?
1か月間、日の出から日没までは水だけで過ごし、日没後に食事を摂る習慣です。このラマダンで体重が増えるといわれていますが、これは断食明けに夕食をたくさん摂ることが原因と考えられます。
このラマダンに関して2007年に発表されたシンガポールの論文では、ラマダン中の体組成をしらべたところ、日没後に大量の食事を摂っていたにもかかわらず、体脂肪が減っていたとわかりました。
夜食べると太るはウソ?
最近ではこれらの論文からも、「夜遅く食べても太らない」と考える学者が増えています。これは果たして本当なのでしょうか?
日本でおこなわれる健康診断のときのアンケート調査では、夕食の時間が遅いと回答した人は、早いと回答した人よりもBMIが高い傾向にあると報告されています。
この結果は、先ほど紹介した「夕食メインのほうが体脂肪が減る」という論文とは異なってしまいます。
1日の摂取エネルギー量が同じなら、夜遅く食べるのが太りやすい原因となりませんが、昼食からの時間が空きすぎると空腹感が強くなり、結果として摂取エネルギー量が増えてしまったと考えられます。
体内にはレプチンと呼ばれる、脂肪細胞からつくられるタンパク質があります。このレプチンは、脳内の満腹中枢に「お腹がいっぱい」と伝えて、食欲を抑え、エネルギー消費を増やす働きをしてくれます。
ただ、夜遅い食事が多いと、レプチンのはたらきは著しく低下することが分かっています。よって、レプチンの作用不足によって満腹感が得られずに普段より食べ過ぎている可能性があります。
夜は昼間と違い、交感神経ではなく、副交感神経と呼ばれる自律神経がはたらきます。副交感神経は腸のはたらきを活発にし、エネルギーの吸収を高めるため、肥満になる可能性はあるといえます。
夜食べるから太るのではなく、満腹感を感じにくくなり食べ過ぎてしまうことにより脂肪が蓄積しやすくなると考えられます。
ただし、朝ならどんなにたくさん食べても大丈夫という訳でもないので、バランスよい食事を心がけることが大切です。